はじめに
大人になってから矯正治療をしたいと思った時に、一番のネックになるのが矯正装置の見た目ではないかと思います。
「歯並びはきれいにしたいが、矯正装置はつけたくない!」という人は、以前は歯を削ってかぶせて治す審美治療(セラミック治療)を選ばれる方もいらっしゃいました。
「(審美治療で)歯の神経を取ったり、歯をたくさん削りたくない」けど「(矯正治療で)目立つのも嫌」という葛藤で悩まれていました。
そういう方にとっては、裏側矯正やマウスピース矯正は目立たない矯正として喜ばれる治療方法でした。
今回は、「目立たないための矯正」という視点で説明させていただきます。
目 次
1、目立つために治療をあきらめていた患者さん
長年矯正治療を行ってきて、治療後に患者さんのうれしそうな笑顔に接すると歯科医師としての充実感を感じます。
一方、治療中の患者さんの憂鬱そうな顔を見るたびに、「頑張って」とエールを送ることしかできない自分に無力感を感じていました。
これまでの経験から正しい噛み合わせをつくり、治療後には、外見的にも体調的にも患者さんに大きな満足を与えられるという自負はあるのですが、治療中にワイヤーやゴムを気にされ、思いっきり口を開けて笑えない患者さんに、何かよい治療方法がないものかと常に思い悩んでいました。
世の中には、矯正治療はやりたいけれど、ワイヤーが目立つのがいやで治療を受けるのをあきらめていた人も多かったのではないでしょうか。
2、目立たせない矯正治療の方法
矯正治療で、見た目が目立って気にかかるという点は、患者さんにとっては長年の悩みであり、矯正治療としてもいまだにいろいろと工夫を凝らしてきています。
目立たない方法として、次のようなことが行われています。
①ブラケット(歯の表面につけるもの)を白く透明なものにする
歯の表面につけるブラケットを、金属の代わりに合成樹脂系やセラミック系の白いものにして、見た目の金属の量を少なくする。
透明や白いブラケットは金属のブラケットに比べて、目立ちにくいというメリットはありますが、金属に比べて欠けやすいという欠点がありました。
それに、ブラケットが白くてもその間を通すワイヤーは金属色のため、矯正していることは、どうしても他の人に気づかれないというわけにはいきません。
②ワイヤーも白くする
ブラケットが白くてもワイヤーが金属色だと、やはり矯正していることがわかってしまうので、それならばワイヤーも白くすればかなり目立たない感じにはなりますが、それにも問題があります。
白いワイヤーは、ワイヤー自体が白いのではなくて、金属のワイヤーを白く塗装しているだけなので、使っている間に白い塗装の部分がはげたり、塗装のためにワイヤーとブラケットのすべり具合が多少悪くなり、歯の動きが少しだけ遅くなります。
(向かって左側がプラスティックブラケットと白ワイヤー)
③歯の裏側にブラケットをつける
ブラケットが歯の表面について目立つのなら、いっそのこと歯の裏側にブラケットをつければ人に気づかれずに矯正治療ができるのではないかということで、歯の裏側にブラケットを装着する舌側矯正という治療方法が日本人によって考え出されました。
この治療方法は、確かに他人からは見えないのですが、しゃべりにくいのと咬みにくいという問題点があります。
歯の表面にブラケットをつける場合には、確かに目立ちますが発音的にはほとんど影響がないのに、舌側矯正の場合には、話すときに舌が傷だらけになるので、しばらくの間はまともに話せなくなってしまいます。
それでも慣れてしまえば普通に話せるようになりますが、慣れるまでの一~二ヵ月はかなりの苦痛が伴います。
この舌側矯正は、ワイヤーが見えない点は確かなメリットなのですが、とてもしゃべりにくく、違和感はかなりのものなのです。
中には矯正装置を一日着けただけで、耐えられずに装置をはずしてしまった人もいたほどでした。
人間には、どんなことにも適応できる順応性があり、舌側矯正においても1~2ヵ月すれば慣れてきて普通に話せますが、慣れるまでは表からの矯正に比べて大変な違和感を伴うのです。
それが、マウスピースによる矯正治療(インビザライン)では、人から気づかれずに、違和感も少なく治療できます。
これは歯科医師としても、患者さんの側からしても、長年の夢がかなったといってよいぐらいに画期的な治療方法なのです。
(上側が裏側装置、下側が表側装置)
3、歯科医の立場と患者さんの立場の違い
物事というものは、立場が違えば見方も違ってきます。
歯科医の立場からすれば、表側から矯正装置を着けて1~2年ぐらいは、「きれいになるためには、見た目と少しの違和感は我慢してくださいね」と考えるドクターが普通で、舌側矯正の場合には「ワイヤーが見えないのだから、しゃべりにくかったり、違和感があるのは仕方ないですよ」というのが歯科医の本音かもしれません。
一方、患者さんの立場からすると、矯正治療を「もっと安く、他人から気づかれないように、そして普通にしゃべる状態で治療してよ」と思われていることでしょう。
私は歯科医師ですが、矯正治療を受けた経験もありますので、患者さんの気持ちも十分に理解できます。
私自身、矯正治療が終了したとき、歯並びがきれいになったことよりも、ワイヤーの矯正装置が口の中からはずせる解放感のほうがうれしかったことをよく覚えています。
歯科医としては、多少の痛みや違和感を伴うことは患者さんに我慢していただくしかないと思います。
しかし患者さんの立場としたら、そういった苦痛や見た目的な違和感などが医療の進歩とともに改良されないものかと不満に思われていることでしょう。
マウスピース矯正(インビザライン)も患者さんの「他人に気付かれないように矯正をしたい」という強い希望が形になった治療方法と言えます。
歯科治療もサービス業に考えられている昨今、患者さんが苦痛に思われていることは、解決していこうとする姿勢がなければ、患者さんは離れていく時代になってきているのでしょう。
4、マウスピース矯正に適している人
どんな治療方法にも、メリットとデメリットがあります。
マウスピース矯正の最大のメリットは、他人から気づかれにくく、目立たないということです。
そして、同じ目立たない治療の舌側矯正に比べても、食事やしゃべったりするときの違和感が断然少ないという点でしょう。
また、着脱できますので、歯のお手入れも普通の人と同じ感覚でできます。ですから、見た目が気になって矯正治療をあきらめていた人にとっては最適の治療方法でしょう。
特にしゃべることが普通にできないと仕事上困る人にとっては、舌側矯正は難しいので、マウスピース矯正のほうが適しています。
それぞれの矯正治療の特性をわかりやすく表にしてみました。
もちろん、同じ治療方法でも、治療する歯科医師の考え方や治療技術には差がありますので、一般論として理解してください。
矯正治療の特性
表側矯正(唇側) | 裏側矯正(舌側) | マウスピース矯正 | |
---|---|---|---|
見た目 | × | ◎ | 〇 |
しゃべりやすさ(違和感) | ◎ | × | 〇 |
衛生面 | ○ | △ | ◎ |
費用 | 普通 | 高い | ケースバイケース |
治療期間 | 短い | 長い | ケースバイケース |
歯を抜くかどうか | クリニックで違う | 抜く場合が多い | 抜かない |
5、歯を抜かないで治療できるメリット
マウスピースで矯正治療することのメリットの一つに、歯を抜かないで治療できることがあります。
私はワイヤーを使う治療においても、矯正治療のために親知らず以外の歯を抜くことをお勧めすることはありません。
というのも、正しい噛み合わせをつくるためにも、歯を抜かない治療を何よりも優先しているからです。
虫歯でもない歯を抜いてまで矯正治療することは、いろいろな意味でメリットよりもデメリットのほうが多くなってしまいます。
マウスピースによる矯正治療も、ワイヤーによる矯正治療も、同じように歯を抜かない矯正であっても、噛み合わせの考え方がしっかりした歯科医によって治療してもらわないと、よい治療結果が得られません。
ワイヤーで動かすか、マウスピースで動かすかは、あくまでも方法論であって、歯を抜かないで正しい噛み合わせをつくるということが矯正治療の基本だと私は考えています。
6、ワイヤー矯正との治療期間の違い
一般的に言って、ワイヤー矯正のほうが治療期間は短くなります。
といいますのも、ワイヤー矯正の場合には、患者さんの意思に関係なく24時間矯正装置が入っているので、一日中歯は動き続けています。
一方、マウスピース矯正の場合には、一個ずつのマウスピースで動かす量は、0.25ミリと決められています。
マウスピースをはずしている時間には歯が動かないだけでなく、今までせっかく動いた歯が元のように戻ろうという働きをします。
したがって、ワイヤー矯正のほうが歯の動いている時間を長く確保できますので、自然と治療期間も短くなります。
また、マウスピース矯正をしている患者さんの中でも、日中少しでも長くマウスピースを装着している人とそうでない人とでは、治療期間に大きな差が出てきます。
マウスピース矯正の場合には、食事中にはずしたら、食事が終わればとにかく早く再装着するぐらいの気持ちが必要です。
7、ワイヤー矯正との痛みの違いについて
ワイヤー矯正では、ワイヤーを取りはずしてワイヤーを活性化して再び口の中に巻き戻すときに、締めつけられる圧迫感が生じます。
ワイヤーを巻いた後、大きく動かしている歯を中心に、全体的な弱い痛みや圧迫感が2,3日続きます。
一方、マウスピース矯正の場合は、すべての歯を同時に動かすわけではなく、1回で動かす本数は限られていますので、動かす歯のまわりの歯が圧迫されて痛みを感じます。
特に、マウスピースを取りはずす時と装着する時に痛みを感じますが、いったん装着してしまえば痛みはさほど感じないようになります。
ワイヤー矯正とマウスピース矯正のどちらの痛みが強いかといえば、すべての歯を同時に動かすワイヤー矯正よりは動かす歯が限定されていて、動かす移動量も大きくないマウスピース矯正のほうが痛みは少ないでしょう。
特にインビザラインはコンピュータの分析によって1つのマウスピースで動かす量は0.25ミリと決められているので、矯正治療における痛みは一番少ない治療方法と言えるでしょう。
☆まとめ
どんな治療方法にもメリットとデメリットがあります。
表の装置には、目立つけど「早い、安い、確実」という特徴があり、裏側の装置には、目立たないけど「しゃべりにくい、違和感が強い、治療費が高い」という特徴があり、マウスピース矯正では、目立ちにくいけど「マウスピースを装着しないと戻る、全てのケースに対応できない」などの特徴があります。
どの矯正方法が最適なのかは、患者さまのご要望によって違ってきますので、矯正相談ではそう言ったことを十分に納得されたうえで決断されることをお勧めいたします。
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部分矯正専門医院の銀座青山YOU矯正歯科を6医院開院中。院長プロフィール、主な著書など。
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